強力なセールスポイントは転職です

私の祖父は、何かしら願い事があると、I神社にお祈りに行く。 その力の加護もあってか、私は今まで中学入試から大学まで、難なく通過してきた。
そんな私の今の課題はもちろん、シューカツの突破だ。 正直なところ、私は進学では挫折知らずだった。
石橋をたたいて渡るような堅実な生き方をしてきたこともあるが、短いながらこれまでの人生で、つまずいた経験がなかった。 だからこそ、就職活動での傷は深い。
ダメージを受けているのは私だけではない。 私の家族もそうだ。
祖父は、I神社に週二回、お祈りに行ってくれている。 祖父の優しさが身に染みる。

祖父に早く朗報を伝えたい。 祖父は決して「就職活動を終えること」や「内定をもらうこと」を望んでいるのではない。
「Jが笑顔になるように」祈っているのだ。 私が悲しい顔をしていると、誰よりも祖父が落ち込む。
昨日も私がわけもなく不安になり、一眉を落としていたら、祖父が「健康第一やぞ。 J子さんとおじいちゃんの願いが通じたのか、彼女はシューカツを突破。
2006年春から金融機関に勤めている。 元気な声と明るい性格の彼女は、職場でも人気者だろう。
同じような話になるが、親元を離れて地方都市から都会の大学に進学した女子学生Rさん。 先週、実家へ帰省したときのことだった。
私は最終面接を終え、疲れきった顔で背中を丸め、一眉を落としてリビングのテレビの前で座っていた。 「はぁ−、これで落ちたいっぱい寝たら明日はいいことあるよ」と背中を優しくさすってくれた。
私は気づかれないように涙を流した。 私は頑張らなければならない。
応援してくれている人たちに早く、笑顔を届けたい。 みんなの祈りを無駄にしたくない。
おばあちゃんのいる仏壇に手を合わせ、声を出してお祈りをした。 「おばあちゃん、私に頑張る力をください」「ばあちゃん、ありがとう。

もう大丈夫やから」。 私が言うと、祖母は「神様は絶対見捨てへん。
頑張っとる子にはきっと良いことがある」と言ってくれた。 ため息をつき、ガックリしていた。
そこへ祖母がやって来た。 祖母は無言で私の後ろに座り、リクルートスーツ姿の私の一眉を一生懸命もみ始めた。
そして、こう言った。 「指圧の強さは、母心」私の疲れきった心身に、その言葉がじんわりと染み込んで来た。
昔から私は、疲れたときなど、祖母に肩をもんでもらうのが大好きだった。 肩をもむ祖母の力の入れ具合は、強すぎもせず弱すぎもせず、こっているところを指で押し、全体をまんべんなくもんでいく。
終わったあとはとてもスッキリし、調子がよくなる。 祖母の手は私を本当に癒やしてくれた。
実は、祖母は最近、腰を悪くしてしまい、その痛みでなかなか床に座ることが出来なかったのだ。 それなのに祖母は、私のために床に座って、孫の肩をもんでくれた。
その言葉を聞いた瞬間、私は思わず涙をこぼしてしまった。 今まで張りつめていた気持ちがバッと切れたようだった。
(私は一人で闘っているのではない)祖母の指圧パワーを心の芯深く感じながら、私は気持ちを切り替え、また新しい自分になって頑張ろう、と強く心に決めた。 「ばあちゃん、今度は私がもむよ」。

私は祖母に言った。 「あなたは一人で闘っているのではありません」出口の見えない就職活動。
やっと最終面接までこぎつけても、採用されるかどうかは分からない。 学生たちにとっては、エンドレスのような過酷な試練が続く。
そばで見ているこちらもつらい。 私は、ひたむきな若者の姿にどうしてもエールを送りたくなる。
添削した論作文やESの隅に、せめてものメッセージとして赤ペンで書いてきたのが、Rさんがおばあちゃんの指圧に涙したとき思った言葉。 これまで、何百本(編)と書いてきた少々気恥ずかしいフレーズだ。
Rさんも、この言葉を送った一人で、そのとぎ、彼女は「勇気づけられました」と私に言ってくれた。 Rさんは、J子さんと同じ年、祖母の住む故郷の損保会社に就職した。
「昨日は寝たのが午前四時だった。 ESの締め切りが連続して、毎日必死で書いている状態だ。
でも、自分のことを深く考えながら文章にしていくことが、少し楽しくなってきた。 『就職のためにやっている』のではなく、本当に自分のためにやっているのだと思う」(女子)「相手に求める条件は自分の条件、とこのクラスのN先生は言う。

相手にこうあってほしいと思うなら、私自身はどうなのか、いつも考えていたい。 ぬるま湯から厳しい社会へ。
苦しい状況でも、コップ半分の水はまだまだあると思える、はつらつとした心の持ち主でいたい」(女子)。 「このクラスは、ただ内定をもらうためだけの教室ではない。
そう思って来るのなら、他へ行ってください」。 ガイダンスで、または新しい人が見学に来るたび、私はこう言って、入社試験をくぐり抜けるためだけの「手練手管」(若者には意味が分からないのでは…。
たまには辞書を引くことをお勧めします)を教えるつもりはなかった。 本当の意味で「力」のある人になってほしい、との思いだけでやってきた。
理想的なことばかり言うようで気が引けるが、知力だけではなく、気力・体力、そして何より人間力を身につけた若者に育ってもらいたかった。 企業社会が生み出すさまざまな不祥事やトラブルが後を絶たない。
経営者・役員など組織首脳陣の責任はもちろん重大だけれど、社員ももっとしっかりしなければ、と考える。 自分の頭で考える社員がどれだけいるかで、これからの企業の命運は決まってくるのではないか。
そのためには、学生時代から、それなりに「基本」をしっかりと学んでほしい、と思う。 モノが満ちあふれた暖衣飽食(また四字熟語)の現代。
しかし、私は、食料自給率40%を切っている日本の現状を考えると、こういう世の中がいつまで続くのか、不安をぬぐい切れないでいる。 殊更あおりたてるつもりはないが、若者たちが、どういう時代になろうとも、しっかりと自分自身の足で立って歩んでいける「社会人」になってくれることを期待している。

「なぜ働くのか」「働いて何をするのか」1人が働く意味や理由、動機などはそれこそ人によりそれぞれだろう。 何のバックグラウンドも持たない、一介の講師が何を偉そうなことを、と笑われるかもしれない。
ただ、ここ十年近く、学生と接してきたささやかな実感から言えば、若者たちがあまりにも小さくまとまりすぎているように感じられてならない。 これはもちろん、若者たちだけに責任があるというわけではない。
若者は社会の縮図だ。 「豊かさのなかのジリ貧感」とでもいえばいいのか、日だまりで一眉を寄せ合っているような、日が陰ってくるまでのつかの間の安息を仲間うちで楽しんでいるように見える。
この若者たちには、シューカツごとき!に戦々恐々(またまた)としないで、逆にまたとない自分磨きのチャンスととらえてベストを尽くし、社会に元気よく飛び出して行ってほしい、と願っている。 ある人にとってそれは義務かもしれないし、別の人間には社会奉仕であり、または喜び、慰めにもなる。
そして、「生きるため」「子らを育てていくため」など、生活の糧を得るというのが最も多い答えだろう。 学生たちは、ESや面接で、嫌というほど、受験企業に対する志望動機・理由などを尋ねられ、同じような質問に正直うんざりしていると思う。

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